第6回
始まりであり目標
面白そうだとお声がけくださる方々、こんな関連もあるよと提案してくれる皆さん、日々一緒に検討・指導してくれる方々、そしてなによりのいちばんは実際にたいそうをしてくれる皆さんのおかげで、数楽たいそうチームは2018年、パトスタジオの定例クラス、様々な出張クラスの両方で充実した活動をすることができました。本当にありがとうございました。改めてお礼申し上げます。
新しいメニューや機会と、その思いがけない反応。印象深いことがいくつもありました。今回はそのなかでもっとも印象的だったものの1つをご紹介します。2018年8月にパトスタジオに来た9歳のセルビアの男の子、テオドールの話です。
その日の勉強タイムでは日本語、英語、セルビア語の3カ国語で1から10まで数えました。クラスの子らを前に、テオドールのお父さんの力も借りて、いち、ワン、イエダン、に、トゥー、ドゥヴァ、…、と数える。ただそれだけです。日ごろからインターナショナルなパトスタジオですので、クラスの子らは何の違和感もなく、いつもと同じようにただ楽しんでいました。
無事3か国語で10まで数え終えたとき、突然、テオドールがスッと立ちあがりました。そして指を折りながらセルビア語で1、2、…、と数え始めます。見学の保護者を含め、その場にいた全員がじっと聞いています。10まで数え終えたとき、わたし(サワ)はとてもとても感動していました。
数を数えるという行為はそんなに簡単な行為ではないのかもしれない。少し経って思い至った感動の理由がこれでした。そういえば数の運用能力を明示的に持つのは、地球上のすべての生物で人類だけです。100まで数えないとお風呂から上がれない。3、2、1とカウントダウンしてタイミングを合わせる。やってしまえばなんてことないことですが、便利だし、なぜかちょっと楽しい。たし算から始まり、ひき算、九九、つるかめ算、方程式に微分・積分。磨けば磨くほど優れた道具として成熟する反面、楽しいと思う人が減ってくるのが現実です。
(A)数を持たない、(B)1から10ぐらいまで数えられる、(C)微分・積分ができる、(A)と(B)の距離より(B)と(C)の距離のほうが近い、(B)はまん中よりずっと(C)寄りではないか。テオドールの1件以来、そう思っています。なぜかちょっと楽しい(B)の状態をできるだけスムーズに(C)に近づけること。数楽たいそうにもし役割があるとしたら、これも1つかなと。数を扱う営みの楽しさを、損ねることなく、それを豊かな道具へ。
[サワ]